
オーダースーツ コンシェルジュ ボットーネの松はじめです。
お塩を少々、ここでフライパンにかけさっと炙ります、3分後、できたのがこちら。
そんな解説をつけたならばクッキングスタジオかと錯覚してしまいそうな光景ですが、先生はごそごそと持ってきたボストンバッグを漁り、まるで毎日その説明をしているかのように滑らかに解説しながら、メリノウール羊毛の原毛やアンゴラ山羊の原毛が続々と登場しました。
さすが集まっていたのがテーラーだけあって、自然と手が伸びて触れていたから、もはや職業病であります。私も羊毛を見たときは興奮して、まるで初めてピッティ・ウオモに来た時かのように、脳内にはアドレナリンが溢れていました。

はじまりました、素材学校、
ボットーネのサロンに、一人、また一人とテーラーやスタイリストが入ってきます。
そしてついに、素材の神、大西基之先生がやってきました。
「あれ?パラブーツだね」と大西先生は偶然同じ靴だった参加者を見つけ、そう言いました。よく手入れされ表情が出たパラブーツが並び、いよいよ講座は開校しました。
7月に第一回を開催して、8月の第一火曜は第二回。
本日からは毎月の特集として、そこで得た情報・知識を発信していきます。
初回は、私たちテーラー、販売員も意外にも間違えている、SUPER XX's(スーパー◯◯と読みます)という表記、それと混同しやすい番手。
スーパーと番手は同じです、と書かれた雑誌、さらには書籍まで散見しているのですが!
実際には違うのですよね、大西先生・・・

スーパーと番手は違う単位
番手(ばんて)とSUPER 〇〇’S(スーパー)は、よく同じ意味だと間違われるのですが、
二つは違う単位を表しています。
こちらはロロピアーナ(イタリアの織元でありブランド)のバンチブック(見本帳)ですが、
SUPER 170'sと書かれています。
スーパー170というように読むのです。
生地サンプルをめくったところにも、生地品番の下に表記がりました。
270g、ウール100%という表記もあります。
まず、このSUPER XX’Sという表記なのですが、
現代ですとSUPER 80’S(スーパー80)くらいから始まり、徐々に数字が上がっていきます。
10ずつ、SUPER 90’S、SUPER 100’Sという風に数値が増えていきます。
このSUPERの数値は太さ細さを表していて、数値が大きい方が細いのです。
それでこの数値が細いことで、細い糸なのか!というと、ここが違うのです。
何が違うのか、ということはこの後に番手をご説明して、明らかにします。
何が細くなったのか?
次に番手です。
番手というのはどういう数値があるかというと、
48番手、52番手、56番手、60番手、72番手、80番手、120番手、などがあります。
48番手はヨンパチなどと業界では呼ぶことがありますので、耳にされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
さて、番手は先ほどの10ずつ数値が増えてゆく数字とは少し勝手が違うようですね。
ところがですね、後半に、80番手と120番手というのがあります。
SUPER表記にも、SUPER80'sやSUPER120'sがありますが、、、
ここが混同してしまう要因なのかもしれません。
さて、結論ですが、
まず番手は何を表しているのかといえば、これも太さ・細さです。
こちら恒重式(こうじゅうしき)というのですが、重さだけ固定で決まっていて、
番手の数値が大きくなると、細くなります。
それぞれ何が細くなったのでしょう?
番手は糸の細さの単位
番手が表しているのは、糸の細さです。
糸というのは、ご覧のような糸です。
先ほど恒重式(こうじゅうしき)と書きましたが、
1,000gの綿を何メートル伸ばせる細さか?ということを単位としています。
この、1,000gというところが固定で決まっているので、恒重式なのです。
ということで、例えば80番手は、1,000gの綿が、80,000m伸ばせる細さになります。
ウールはm表記だけど・・・
ウールの番手は、一番簡単な、メートル法を使います。
メートル法の他には、ヤードポンド法というのがありますが、
これが非常にややこしいのです。
アメリカで体重を、何ポンド?と聞かれて回答に困ったそうで、
プロレス選手をイメージしながら、だいたいこのくらいか、と回答したとかしなかったとか。
ジャイアント馬場が300ポンドくらいでしたっけ?
麻がポンドヤード法を使っているのです!
わかりづらい・・・
話を戻します、番手が糸の細さといことがわかりました。
じゃあSUPERは何の細さを表しているのでしょう?
SUPERは繊維の細さの単位
SUPERは、原料の繊維の細さです。
前出のように恒重式(こうじゅうしき)は重さが決まっていて、数値が大きくなると細くなりますが、
SUPERは恒長式(こうちょうしき)で、長さが決まっており、先ほどとは逆に、
数値が大きくなると単位が大きくなります。
さらに5マイクロン細く、 17.5マイクロンになると、120'sとなります。
スーパー表記はスーツなどに使われる羊毛だけです。
まとめますと、
番手というのは、(繊維の集合)糸の太さ細さを表している。
ということで、
例えるならば、
番手がカレーライスの辛さを表しているとすれば、
SUPERはカレーを構成する香辛料の辛さを表している、
ということでしょうか!
(かえってわかりづらいかも・・・)
ということで、スーパーというのは原料のときに決まっているわけです。
それを糸にしたら番手になるのということなのです。
例えばですが、スーパー130の繊維長の原毛を使って、
80番手の細さの糸に仕上げました、ということもあれば、
スーパー130の 繊維長の原毛を使ったけれども、
48番手の太い糸に仕上げている、ということもあるのです。

数値が高いから良いというわけでもない
そして、実はこのスーパー表記、一概に数値が大きいから良い、というわけではないのです。
「1つは、エアコンの発達ですね。僕らがこの業界にはいったときは、
ヨンパチ(48番手)くらいで、スーパーって表記はなかったけれど、敷いていえあスーパー80くらいでしょうか。
それが 現代は、72番手くらいの糸が普通になっているもんね。
そういう服が要求されている。」と大西先生。
スーパー表記が大きいから一概に良いわけではない、ということについては、
講義でもあったのですが、例えば英国羊毛という点から考えてみます。
英国羊毛シロップシャーが登場
おっと、おもむろにバッグから登場しましたのは、英国羊毛シロップシャー。
紳士服地に使われる羊毛原料のうち、メリノ種以外の羊毛はほとんどは英国羊毛です。
英国羊毛の品種はなんと60種類を超えています。
強度と弾力性が特徴ということで、触ってみますと、非常に荒い。
英国羊毛には、スーパー40などもあるのです。
そういった英国羊毛じゃなきゃできない服があるのです。
エアコンが発達して、厚い生地よりもソフトな、羽織るような感覚の服が流行り、

テーブルに置かれたのがメリノウール。
手前が綺麗で奥は汚れていますが、同じメリノウールでも環境や手のかけ具合で随分と品質が違うのです。
「チョッキを着せて育てるかどうか(でこんなに違う)だよ (手前を指し)。
こっち(奧)は臭いもキツイ、うちの犬みたいな臭いがする(笑)」大西先生。
英国羊毛は、オーストラリア・メリノ・ウールとは反対に、英国という寒い地域で生まれます。
ロンドンのテーラー街、サビルロウでは、英国羊毛で仕立服を作っていました。
サビルロウで作るブリティッシュと私たちが呼ぶスーツは、ドレープの服。
なぜサヴィルロウではSUPER40'sが使用されるのか?
「ドレープ、聞いたことあるでしょ?
イギリスの服というのは、人間の体をより強調して、
むしろ、人間が格好よく作られた服に入る。
本当のイギリスの服って堅苦しいんです。
作った服に、人間が入る。
格好良くなる代わりに、
自分がきちっとしていないといけない。
そういう服を作るには、英国素材が最適だったのです。
アイロン操作で、ドレープとか、前肩とか、毛織物の熱可塑性を生かすのです。
それを利用して服を作るにはアイロンが必要。
ほとんどテーラーの腕はアイロンがうまいかどうかにかかっていました。
イギリスの服は、アイロンで殺すんです。
生地を厚くして、殺す。」
「だからドレープとか、前肩にすることができます。
そうするためには、それに耐えうる生地が必要で、英国羊毛が向いています。
繊度が太くて、ハリコシがあるほうがアイロン操作に耐えられる。」
基本的にアイロン操作が要なのですから、スーパーが高い生地ではだめなのです。
36番手の梳毛で、英国っぽくウエストを絞った感じ、そういうような思想でできているのです。
柔らかいから風合いが良いってことはない
さらに発展させると、どのような服がゴールなのか、着るシーンは?どのような歴史的な意味がある服で、どのように魅せる必要があるのか?ということによっても、選ぶ素材は変えなければならず、それが単純にスーパー150だから良い、といことにはなりません。
「風合いってなんだろう?
柔らかいジャケットは風合いが良いのだろうか?風合いとは文字どおり、風の向き。」とは大西先生。
右から風が吹けば ダブルブレストジャケットで右を覆い、左から風が吹けば左を覆う、
ダブルブレストのブレザーは、まさに船乗りが風を凌ぐ目的なのですから、
柔らかい素材ではいけないわけです。
ということは、ダブルブレストのブレザーなのは固いこと=風合いが良い、ということなのです。
同じように、ノーフォークジャケットを作るのに、スーパー150の柔らかいので作っても合いません。ですから、ノーフォークを作る上ではスーパー150の生地は風合いがいいとはいわないわけです。
「作る目的物にあってるかどうか?が風合いで、柔らかいとかソフトって勘違いしてる人がいるんだろうね。」
こうした観点から考えても、スーパー表記は一つの目安であり、
どのような服にしようか、ということから逆算すべきですね。
スーパー130が少しでも混ざっていれば??
さらに、もしスーパー130と表記されていても、全てがスーパー130でなくともスーパー130と表記できます。
無農薬野菜もそのような節があると思います。
ある基準値を達することで、エコカーと呼べるようなもので、
こうなってくると、もはやスーパー表記では品質がわかりませんね。
これは原毛の差もありますし、その他いろいろな理由があります。
もちろん単純に高価であることが全て、ということではありませんが、

まとめ
プラチナエイジ受賞のジャパニーズダンディ、大西先生と記念撮影。
どのようなシーンで、どのような服で、そして素材は何が最適なのか?
信頼していただいて洋服を制作させていただくわけですから、
素材選定や知識はとても重要です。
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テーラーやアパレル販売員の方へ
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テーラーの世界は個性的な方が多く、横つながりが希薄ですが、
私たちは既存の考え方に囚われず、純粋に業界が発展に貢献したいという願いと、
またインターネット上で間違った知識が広がっている状況を危惧しています。
正しく、愉しい知識があれば、
もっと洋服は面白くなる、をテーマに企画して、
素材の神 大西先生や生地卸売の馬場さんのお力を借りて、講義が実現しました。
参加したいテーラーさん、販売員の方、素材、マスコミの方も歓迎です。
・日時:4月・6月・8月・10月・12月・2月
第一火曜 10:00〜13:00
・場所:株式会社ボットーネ
・料金:5,000円(事前振込制)
教科書である大西基之先生の著書、メンズウエア素材の基礎知識に基づいて進めますので、
書籍の事前購入が必須となります。
現在第一回、第二回の講義を終えてはおりますが、
例えば第3回から、というような途中参加でも楽しく学べます。
大西基之先生と講義の趣旨
大西基之先生素材学校:第二回 糸の撚り
ただし現在のスペースには人数に限りがあるのと、
あくまでも10人以下の少人数の勉強会をイメージしております。
参加希望の方はお早めにメールで、素材講座参加希望とお伝えくださいね。
メールフォーム
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スーツやタキシードをオーダーや吊るしで購入する皆様へ
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もしかしたらかえって混乱させてしまったかもしれないのですが、
素材は雑誌でも間違えてしまうほど専門性のある内容で、
編集の方々が隅々まで理解しようとすれば、大西先生のような方が各社に必要でしょう。
お伝えしたいことは正しい情報と、
単にスーパーという表記に惑わされず、
良いスーツ(オーダースーツに限らず)を手に入れていただけましたら幸いと思っています。
もちろん、数値は一つの目安ではありますし、
まったく何もわからない状態で購入するよりは一つの指標になります。
お客様が大前研一先生のBBT大学の一つの講義で、
中谷彰宏さんのみだしなみ講座に参加したときのお話で、このようなことを言われたそうです。
「信頼できそうなテーラーや販売員を見つけなさい。
それで、その人と友達になりなさい。」
素材やメンテナンスのご質問もメールでいただけましたら、 順次ブログを通してご回答させていただく予定です。
ご質問はメールフォームで受け付けています
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ボットーネのブログ
例えば最近の記事では・・・
服飾評論家。ファッション・エッセイスト。 国際服飾学会会員。
主な著書に 「スーツの百科事典」 「男はなぜネクタイを結ぶのか」 「福沢諭吉 背広のすすめ」 「ボルサリーノ物語」 など多数の出石尚三氏の特別公演に参加!
出石尚三先生の特別公演 英国から来た流儀
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ボットーネでは創業以来、ただスーツを仕立てるだけでなく、立場や時間、与えたい印象、好み、お持ちのアイテム、似合う色と柄、今と未来のスタイルをトータルで考えた、あなたに最適な戦略的スーツのお仕立てと着こなしをご提案いたしますので、まずはメールで日程をご予約ください。
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