採寸

オーダースーツ コンシェルジュ ボットーネの松はじめです。

スーツを仕立てようと、いざテーラーに行くと、最終的には採寸をしてもらう必要がありますが、デザインやディテールも決定する必要があります。ざっくりとして雰囲気があればそれをフィッターに伝え、明確なものがあれば写真や絵、時には現物でそれを伝えると良いと思います。

ところで、サイズ感と並んで一番大きな要素は、生地ではないでしょうか?
同じ形でも生地が変わればまったく別のスーツです。


女性の服は他人と違うことで安心する、
男性の服は他人と一緒で安心する、
これが洋服の社会性です。

パーティに参加した女性がもし自分とまったく同じドレスの女性を見たら、良かった!嬉しい、とはなりません。
男性の場合は、タキシードは全員同じ。
スーツでもボタンがありポケットがあり、ジャケットといってもビジネスシーンなら大幅に他人と異なるものは着用しません。

これが洋服の社会性というわけです。


さて、そのようなこともあってスーツには、生地、素材などにこだわる、細部のディテールにこだわるといって、奥深い世界観があります。 

ところでその素材、生地について、実際にどのように選ぶのか?というと、

・実際のスーツを見て、着て、選ぶ
・着分という、約1着分(3.2m)にカットされた生地を身体や顔付近に当てながら決める 
・バンチやカードサンプルなどを見て選ぶ 

スーツ バンチブック

様々なバンチブックは、見ているだけでも楽しい。


ドーメル カードサンプル

こちらがカードサンプル(ドーメル)


このようにサンプルや実際の服から選ぶことになるのですが、オーダーの場合は実際に着用して選ぶ、というお店は殆どありません。
膨大な生地があり、フィッター(作り手)と相談しながら、最終的な完成形を想像しながら決めていきます。
現物がないからこそ、選択肢が多いわけであります。


実際にオーダーした方の多くは、このバンチと呼ばれるサンプルブックから好みやシーンに合ったスーツ(ジャケット)を選んだご経験があるのではないでしょうか?


本日は、
・バンチブックがどのように選定されてバンチブックの1枚になったのか?
・ちょっと通な用語
・英国、イタリア、日本、それぞれの物づくりの変化は
などをお届けします・・・


 

チェックボックスサンプル作りはまず桝見本からスタート



まず、今季はどのようなラインアップの生地を提案するか、
デザイナー中心に企画を練るのですが、
当然、紺とグレー!と一発勝負で生地にするのではなく 、
一度見本を作ります。
この見本を、桝見本(ますみほん)と呼び、ブランケットサンプルとも呼びます。

スーツのバンチブックの選定 桝見本


桝見本とは読んで字の如く、
桝目が並んでいる、150センチ幅の生地。
少しずつ色味を変えて、実際にどのような色柄になるのか、を織ってチェックするわけです。

生地をデザインするということは、色、柄、それに素材など様々な要因が組み合わさって完成されます。
1桝10センチの桝がズラリと並んでいる桝見本、
今季はこれと、これ、というように桝を切り取って抜いていきます。



チェックボックスこの柄の他の色はありますか?という時に覚えておきたい業界用語



スーツのバンチブックの選定 桝見本


こうして厳選されてバンチブックに組み込まれるのですが、
同じ柄でも、数色色違いが存在する場合がありますよね?
この、同柄の色違いのことを、ナレ(または色ナレ)と呼びます。

例えば写真の、2612-8938の色ナレが、
2612-8937となります。

チョークストライプ

チョークストライプの名前の由来はテーラーズチョークで引いた線。
ネイビー、チャコールグレーと定番の色ナレ。


スーツの色ナレ

無地のコレクションなら、こんなにも色ナレが・・・


スーツを仕立てる際に、
「この柄の色ナレはあります?」なんて言ったら、こいつ・・・通だな、などと思われるかもしれませんね。


こうして厳選されてバンチブックに組み込まれる生地ですが、
売れ筋として多めに織られる場合もあれば、
バンチブックの色どりのためや、目玉として組み込む場合もあります。

無地はさほどトレンドに左右されませんが、
チェック柄などは毎期流行り廃りもあります。



また、英国マーチャントは何年も継続バンチで、
チェック柄も継続して提案するケースも多いのですが、
イタリアのマーチャントやミル(織元)の場合は、毎期新鮮なトレンドを提案するために、
高い頻度で更新する傾向があります。

オーダースーツ生地バンチブック

真っ赤なバンチがトレードマークの、英国のマーチャント、ハリソンズオブエジンバラ。
何年も継続され続け、残った生地に新しい生地が足され、まるでウナギのタレのような。


さて、やはりファッションですから、去年と同じ色・柄が出ているより、
旬な色・柄を、変化に富んで見て仕立てた方が楽しいですよね。


反対に英国マーチャントなどは、クラシックな良いものは普遍、というような英国的思想も影響しているのかもしれません。
流行り、廃りではなく、伝統的なもの、社会的立場を表し、表現する服、それがスーツですから。




チェックボックス柄師VSデザイナー 国によって決定的な違い



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このように見本の選定のされ方もお国柄で異なるのですが、
実はバンチを組む人間も国によって違うのです。

例えば日本ではこの桝を制作する人間は、「柄師(がらし)」と呼ばれる人間が担当します。
柄師は技術者となりますから、どのような人間が就くのかといえば、
工業学校出身者になります。

すると、どうなるのでしょう。
技術者が悪いというわけでは全くないのですが、
少なくともファッションとは縁遠い人間がそのポジションに就いてしまっているのです。


それでは、イタリアのビエラ地区はどうでしょう?
ビエラ地区には人気の生地の織元が集中しています。
素材作りに適した環境が整っていることもあるわけですが、
イタリアでは、日本の柄師に当たるポジションには、デザイナーが就きます。

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デザイナーは織機を扱うこともあるといいます。
まさに、洋服のデザインをする技術者というわけです。
ここが決定的な違いですね。

つまり、物づくりをするのか、
ファッションをクリエイト(デザイン)するのか、
両社には大きな違いがあるといえるのではないでしょうか。

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チェックボックスそして衰退するヨークシャー&尾張一宮・・・





スーツの生地には、ミルと呼ばれる織元と、マーチャントと呼ばれる商社とがあるのですが、
織元は主に以下の国にあります。

・英国(ヨークシャーなど)
・イタリア(ビエラなど)
・日本(尾張一之宮など)
・中国

英国はヨークシャー中心に、スーツに使用されるウーステッド(梳毛)織物産業が盛んでした。
英国の産業構造を真似たのが、日本です。
そして、英国、日本、それぞれ衰退傾向にあるのです。

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どのような構造なのかというと、
商店街のように職人たちが一体となって街、産業を作る、という構造で、
生地というのはまず原毛を紡ぐ紡績に始まって、最後は整理という工程があるのですが、
それぞれ分業しています。
 
染めを担当する、染色屋、糸にするための撚糸(ねんし)屋、糸を織る機屋(はたや)、補修屋、整理屋といった具合です。


チェックボックス人件費高騰!そして中国へ・・・



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しかし、先進国は経済成長とともに人件費が上がり、出生率が下がりますから、高齢化が進んで、結果どの国も職人不足に陥ります。

こうして生地などの物を作る生産拠点は人件費の安い国に移りますから、中国のように人件費が安い国へと仕事が流れます。
今となっては中国も人件費が高騰していますから、例えば服作りなどはさらに安い国へ、ベトナム、バングラデュに流れています。 


英国も日本も同じ課題を抱えているのです。



チェックボックス一人勝ちビエラの物づくり



イタリアの生地


それではイタリアはどうなのか?というと、独自性のある素敵な生地が世界へ発信され続けています。
これは、英国や日本とは違う方式が採用されていることも成功要因なのです。
どのような違いかというと、
一貫紡なのです。


一貫紡とはどのような方式かといえば、
紡績、染色、整職、整理、検反、出荷まで自社で行うという、
例えば生産から販売を自社で行う会社に、ユニクロがありますが、
リスクはあるのですが、メリットも大きいのが特徴です。

やはり、真似されにくく、独自の商品(生地)開発ができるのです。
英国や日本の方式では、染めを担当する染色屋が同じであれば、違う会社でも同じ色を出すことができるわけですが、イタリア式では自社内で全て完結するので、非常にユニークな色・柄など、独自の表現ができます。

さらに前述のようにデザイナーが中心となって生地の企画をするため、ファッショナブルな生地が多いことも挙げられます。



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ドーメルのデザイナーのアイリーンさん。
ドーメルはフランスのマーチャントで、2年継続バンチとなっています。
ちなみにゼニアなどのブランドは、半期で250〜300柄を持っているそうですが、
なんとドーメルは、半期でも700〜800柄を持っています。

 
そしてドーメルは、ゼニアやロロピアーナのような、既製品は展開していないため、
今季のオススメはこれ、というのはない、
それがフランス本社の考えだそうですから、
ライフスタイルに応じた生地選びがしやすいかもしれませんね。



チェックボックスデザイナーは驚きの高年棒



 スーツの生地


さて、このデザイナーは非常に高給であることがザラだそうで、
社長に次ぐ高給取りであることも少なくないようです。
それもそのはずで、生地次第で売れ行きが大きく変わるわけですから。

こうした点も、日本だと平均的な年収ですから、リリースされる生地も違うのも当然ですね。




以前、尾張一宮の葛利毛織に見学に行きましたが、やはりこれまで述べてきた点を感じました。
しかし、生地は非常に良質で、日本の物作りも世界に誇れる部分があります。
やはりあとはデザイン、そしてブランド力なのではないでしょうか。


最後に、中国は?といいますと、なんとイタリア式の一貫紡であることが多いようです。
現実的には高性能の織機が、次々と中国に投入されています。
こちらも、あとはデザイン(色や柄)が課題なのではないでしょうか。
逆にいえば、中国の織元に感性豊かなデザイナー集団が加われば・・・と考えますと、今後の勢力図は大きく塗り替えられるのかもしれませんね。 


本日の内容は、大西基之先生の講義にて学んだ内容と、独自の解釈を交えて書いております。
メンズウエア素材の基礎知識講座も今回で5回目。
今後も素材の情報も発信してまいります。

 大西基之 松甫

メンズウエア素材の基礎知識 講座 英国羊毛の種類
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